義信、お前が亡くなって十三年になる。
俺は、お前より二十三年も長生きしてしまった。仕事も退職し今は、溜息ばかりの初老の仲間入り。
この頃昔を偲ぶ事が多くなった。お前が四十二で亡くなったことは、本当にショックだった。十一年下のお前に、父親代わりに接していた俺は、心が病む程そこから抜け出すのに時間がかかった。その間繰り返し、お前への思い出が悲しみと共に蘇っていた。
年取っての子だったお前を親父は、本当に可愛がっていた。特に野球好きの親父は、どんどん野球好きになっていくお前が可愛くてしかたなかったんだ。家の前でキャッチボールしてた時の嬉しげな顔と義信、お前の自慢げな顔が、忘れられない。
そんな中での親父の死。お前が風呂場で声を忍ばせ泣いていたのが、今も目に耳に残って離れない。
そして数年後、お袋も逝く。お前の結婚が決まる中、些細な事で俺と口喧嘩になった時、涙に言った「俺の式には親父もお袋もいないんだぞ」。俺は聞くのが辛かった。
でも、結婚し二人の子ができ庭のある家も買って本当に幸せいっぱいという時……。意識なく呼吸ばかりが静かに刻まれる病室で「お父さん死んじゃうの」と呟くように聞く和也に、俺は言葉も返せず、まだ温(ぬく)むお前の手を、微かな希望をもって握るしかなかった。
葬儀を終え皆でぼんやり庭を見ていると、美貴が独り言のように話した事。
「そこの芝生に、お父さん酔うとよく寝転がっていた。いつも同じ所に寝るから芝がそこだけ伸びなくてお父さんの形になって」
ぽつぽつ話す美貴は、悲しみの中にも幸せだった日を思い出していたんだ。義信お前は、酔って家族に見守られながら芝生に寝転がることに、無上の喜びを感じていたんだろ。家族の事を心残りに逝った弟。
でも俺が思う程お前は、悲しみだけで皆と別れたのではないと、今は思う。時は悲しみを癒し忘れさせる。そんな気持ちになってる俺が年取った証拠なんだ。
でもやっぱり義信、お前の事が忘れられない。