妻へ 30代 大阪府 第3回 銀賞

1歳の約束
谷元 悠 様 30歳

 「この子の1歳の誕生日はとびきりのお祝いをしようね」。約束はきょう、果たしたよ。

 君がいなくなってしまってから、ちょうど1年が経ちましたね。

 あの日、病院に駆けつけた僕を待っていたのは、娘が無事生まれたという知らせと、もう1つ。大量出血で君が助からなかったという知らせでした。

 生まれたばかりの娘のことも忘れ、ぐちゃぐちゃに泣きながらお医者さんに怒鳴りかかり、君のお父さんに止められたこと。座り込んで泣き続けた僕の横で君のお母さんが、僕の知らない小さかったころの君の話をしてくれたこと。病院の廊下の暗さが憎らしく思えたこと。記憶の断片は今でも頭から離れてくれません。悲しくて、情けない僕の父親初日でした。

 あれから1年。君が生んでくれた大切な娘は、いま、大きな病気にかかることもなく、すくすくと成長しています。最近では歯が何本かはえてきて普通のご飯も食べられるようになってきたし、まだ数歩だけど、歩くようにもなりました。(僕の育児もなかなかのものでしょ?)言葉ももう少しで出てきそうです。きちんと会話ができるようになったら、君のこと、いっぱい話そうと思っています。

 君は覚えていますか。妊娠がわかった時に2人で話した、娘の1歳の誕生日のことです。君がいなくなっても、いや君がいなくなってしまったからこそ、僕には大切で尊い約束。

 盛大ではないけれど、とびきりの1歳の誕生日。この手紙は、きょうそれを果たした報告の手紙です。

 僕らの娘の衣装は、なんと君が1歳の時に着たピンクのドレス! 君のお母さんが、この日のために探し出してくれたものです。ほんとうに、すごくすごく可愛かったよ。娘の晴れ姿をみて、いろんな思いがあふれてきて、やっぱり僕は泣いてしまったけど、君の両親の方が僕よりずっとたくさん泣いていました。

 君というかけがえのない大切な人を失ったけれど、君がくれたかけがえのない人たちに支えられているから、きょうも僕は生きていけます。ありがとう。これからも、いつまでも見守っていてください。

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