あまりにも突然の旅立ちだった。二人で談笑しながら夕食をとっている時、突然、椅子から倒れ落ちたお前は、そのまま帰らぬ人になってしまった。あっという間の出来事である。救急車も間にあわず、医師は心筋梗塞と診断した。
葬儀前日、七歳の孫娘がお前の遺体にとりすがり、「おばあちゃんの馬鹿、馬鹿」と泣きじゃくっていた。その姿に、居合わせた人全員が、もらい泣きしてしまったよ。無理もない。孫娘を、誰よりも一番可愛いがったのは、お前だったからな。
お前は家庭の太陽だった。いつも、にこにこしておって、不平というものを聞いたことがない。僕の安月給に愚痴などひとこともいわず、じょうずに家計をやりくりしながら、二人の娘を立派に育ててくれた。二人の娘はよい伴侶と出会い、幸福に暮らしてる。これも、お前の育て方がよかったからにほかならない。
お前が天国に旅立って、もう五年になるなあ。最初の頃は、なにも手につかず、毎日、呆然としているだけだった。僕の呆然としているのを心配した長女も次女も、一緒に住まないかと誘ってくれたが、その都度断っている。
お前と結婚して三十七年。おたがいに助け合いながら、やっとの思いで建てたマイホームだ。そう簡単には立退くことはできないよ。お前と暮らした思い出が、どの部屋にも、たくさんあるからなんだ。
今はどうにか、ひとりで食事が作れるようになったし、掃除、洗濯、庭の手入れ、買い物など、お前が生前やっていたことを、ひととおり出来るようになった。生きておったら、僕の変身ぶりに驚くだろうなあ。
今は感謝の気持ちでいっぱいだ。よくもまあ、こんなこまごましたことを、毎日、にこにこしながらやっておったもんだと、不思議にさえ思ってる。よく頑張ってくれたね。どうか安らかに眠ってください。