母へ 50代 兵庫県 第13回 入賞

笑うお母さんへ
谷口 ゆみ子 様 55歳

 小さい頃、お母さんは一度も私を叱らなかったね。

何をしても「あらまあ、こんなことになってるわ、アハハハハー」と笑ってたよ。だから私はやりたい放題で、ちっとも怖くなかった。

一番覚えてるのは幼稚園の滑り台。平屋の私の家には段がなかったから階段を知らなかった。滑り台で初めて段を知ったんだ。最初は怖くて一段も上がれなくて、毎日先生の特訓があったんだ。一日一段ずつ上がるようになって、何日もかかって一番上まで上がって。

初めて滑り降りたら面白くて何度も何度も滑っていたら、お母さんが迎えに来て「あら?まあ!」ってビックリしてるの。

「パンツに大きな穴が開いてるわよ。何したの?」

「滑り台!」と答えたら大笑い。先生も来て、パンツの穴を見せたら「一段も上がれなかったんですよ」。

するとお母さんは「まあ!よく頑張ったわねえ。これからはパンツ何枚も履いて滑りましょうね、アハハハハー」とまた大笑い。

近所のお店に二人で買い物に行ってスイカを買って、私が持って家の前まで来てボトッと落としちゃった。そしたらお母さん、「あらまあ、落ちたわねえ、アハハハハ」って笑ってた。

家の中でバレーボールして硝子を割った時も、「あらまあ、硝子割れたのねー、何して割れたの? まあ、元気のあること、アハハハハ」って。叱られたことは一度もなかった。

大きくなってからは心配かけたことはあったけど、叱られたことは一度だけ。

「他人の言うことを気にしすぎる。もっと大人になりなさい!」って。

お母さんが亡くなってもう八年目。おかげで私は明るい、そして他人の言うことをあまり気にしない大人になったよ。

これからも「私は私」で頑張るから、天国で「アハハハハ」と笑って見ていてね。

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