私ね、人生の最後に食べたいものは何ですか? と聞かれたら昔から迷わず「スイカ」と答えていたのを知らないでしょう?
本当にスイカは一年中食べていたい大好きな食べ物。でも、他の人は、その質問の答えの理由をちゃんと言えるのに、私はスイカの思い出なんて全くなかったの。でも、絶対に最後はスイカが食べたいって変わらず言っていてね。自分でも不思議だなぁって思ってた。
そしたらその理由がね、最近になってやっとわかったんだ。それも突然に。妹が、お母ちゃんの口から聞いたことを私に教えてくれたのよ。お父ちゃんとお母ちゃんが亡くなってもう十七年以上も経った今頃わかるなんてね。
妹が言うには「お姉ちゃんがお腹にいるときにね、つわりの辛さからお母ちゃんが『スイカが食べたい』って言ったんだって。まだスイカの季節には早かったのに。そしたら、お父ちゃん黙って出て行って一日中帰って来なくて、暗くなってやっと帰ってきたときに、小さなスイカを抱えていた」と。
妹からその話を聞いたとき、スイカを抱えたお父ちゃんを見たお母ちゃんの申し訳なさがすごく伝わってきてね。
だって、あんなに貧乏だったんだもんね。我が家。近所でも評判の貧乏。いろんなことを家族みんなが我慢しなくちゃいけない貧乏。
それを知っているのに言葉にしてしまったお母ちゃんの後悔と、どうにかしてスイカを食べさせたいって思ったお父ちゃんの辛さ。バスに乗る余分なお金もなかったから、きっと歩いて町に出たんだろうね。だから一日かかったのかもしれない。
お母ちゃんは申し訳なくて、やっと買えただろう小さなスイカを見て泣いたんだってね。
そんな六十一年前のスイカの出来事を聞かせてもらったから、私の最後に食べたいものは、「スイカ」って昔から言い続けていたのがやっと自分で納得したよ。
お母ちゃんのお腹の中で食べたスイカは、それはそれは美味しくて忘れられない思い出に残る味だったんだろうね。食べさせてくれてありがとう。