母へ 父へ 40代 大阪府 第8回 入賞

両親のいない秋
オルソン 予史江 様 46歳

 こちらでも雨音が激しく、風も強くなり、テレビでは「東海地方台風接近」と伝えています。「大丈夫かな、電話しなきゃ!……」。それからふと目を落とし、

お父さん、お母さん、もういないんだ。

伊勢湾台風を経験した貴方は台風嫌い。私の記憶の我が家の台風はお祭り騒ぎ。父は急いで帰宅し雨具に着替え大雨の中、雨戸張り。祖母は一心不乱で読経し、部屋の中は線香の煙でむせていた私たち。停電になると家族で蝋燭(ろうそく)を囲み、幼い弟は誕生日がきたとふざけて蝋燭(ろうそく)吹き、歌をうたったり。

何も怖くなかった。未来を恐れず、疑わずに前進できた。それは貴方たちが守っていてくれたから。今も巡りゆく季節の中に貴方たちを傍に感じ、貴方たちをさがしてしまう私です。

お母さん、最後の一年私たちの家族のところへ来てくれてありがとう。慣れない土地、慣れない家なのに「ここが私の最後の居場所」と、言ってくれましたね。

毎朝、まるで子どもに質問するように、「今日は何月何日?」「季節は?」なんて馬鹿げたこと聞いてごめんなさい。認知症テストで野菜の名前が続かず、つい怒ってしまいごめんなさい。お母さんにはいつまでも元気でいてほしかった。今はわかるよ。野菜の名前なんてどうでもいい。季節がわからなくても、一輪の花をみてそこに笑みが浮かべば、それだけでいい。

毎晩月に手を合わせ、過ぎた一日に感謝をしていたお母さん。そんな貴方の言葉さえ悲観的に聞こえていた私は無知でした。

「人は老いる」

亡くなった今も多くのことを、教えてくれる両親。普遍的な日々や瞬間が宝物。意思を持って人生を全(まっと)うする大切さ。私に出来るのかなあ……。

お父さん、お母さん。みていてね。そしてその時がきたら、「よく来たね。頑張ったね」と、あの笑顔とぬくもりで私を迎えてね。必ずきっとよ。

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