お義父さん、お義母さんへ
こちらの季節は、今は梅雨。お義母さんが大好きだった「くちなしの花」が、今を盛りと咲き誇り芳しい香りを放っています。香りは、そちらにも届いていますか?
七年前にお義母さんが旅立った後、悲しみの中で遺品整理をしている最中、思いがけない物を見つけました。和箪笥の引き出しの奥にひっそりと、着物で隠すように大切に保管されていた物。それは戦時中に軍医として満州にいたお義父さんが、内地にいたお義母さんに宛てた手紙の束でした。始めて見る「軍事郵便」と赤い印が押されたハガキ。小さな押し花が挿まれていた虫食いのある便箋。遺品整理中であることなど忘れ、手紙を読むのに夢中になりました。どれもお義母さんへの思いが、小さな文字でびっしりと書かれた恋文で、今のお義父さんからは想像もできないロマンチックな言葉が並んでいました。まるで純愛映画さながらで、当時のお二人の心情が伝わってきて涙がこぼれました。何よりそれを受け取ったお義母さんが、長い年月を経た今日まで、大切に保管していたということにも、心が震える思いがしました。時折、それを取り出して読んでいたのでしょうか?
それから一年余り後に、旅立つお義父さんの棺にその手紙の束を忍ばせたのですが、届いたでしょうか?恋文を握りしめたお義父さんと会えたのでしょうか?娘の言葉を借りるなら「ラブレターの再配達」らしいですよ。
きっと、仲の良い存命中の時のように「お父ちゃん」「温美」と呼び合いながら、片寄せ合い頬染めて懐かしい手紙を読み返しているのだろうなと想像しています。
悦子