母へ 40代 長崎県 第1回

お母さんへ
中村 奈保美 様 46歳

 お母さん、父さんとそちらで仲良くやってますか?

あなたが逝ったあと、生前あなたに優しくできなかったことを後悔してた父さんだから、さぞかし大事にしてもらっていることでしょう。

 母さんの余命が短いことを知った後、外泊を許され、迎えに行った病院のエレベーターで、母さんとしっかり手をつないだ父さんを、初めて見ました。別れが遠くないうちにくることを思い、どんな気持ちだったんだろうね

 元気な頃、気の強いあなたと、お酒の入った父さんの言い争いばかりが記憶に残っていたけれど、大切な人を守る様にしっかりと手をつないだあの日の二人の光景は、二人がいなくなった悲しみのあと、ほのぼのとした両親の姿として、私の心に残っています。

 あの姿が、長い年月を経た、父さんと母さん夫婦の形だったんだね

 あなたが逝った後は、あれだけ好きだったお酒も飲まなくなり、兄さん家族に囲まれていても、どこか淋しそうでした。

 けんかばかりしていても、父さんの心のよりどころは、あなただったのですね。私達では代われなかった様です。

 亡くなった日の夜、仏壇の前で首うなだれた父さんの姿が見えましたか? 集まった親せきの前で、「口うるさかけど、良かばあちゃんやったとばい」と涙声で言った声が聞こえましたか?

 外出を嫌った父さんはあなたのお墓に行くときだけは、いそいそと出かけました。会える気がしたんだろうね

 頑固なまでに、生前あなたに優しくできなかった父さんは、どれほどあなたが、自分にとってかけがえのない存在だったかを、別れの日からの姿で私たちに語っていました。父さんを見ていて私は夫婦というものがわかった様な気がします。ただ、どちらかがいなくなってから気づくのは悲しいので、元気なうちにいっぱい仲良くしておくつもりです。

 あの日見た二人の光景は、「あの両親の元に生まれて幸せだった」と今でも私に思わせてくれます。そんな思いを子供に残してあげるのも親の務めだと、母さんたちを見送って思います。そんな親でいられる様に、あの日の様に二人しっかり手をつないで見ていて下さいね!

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