母へ 50代 島根県 第13回 銀賞

お母さんへ
渡部 晃子 様 50歳

 やっと今日、写真の整理をしました。

お母さんの結婚写真。つのかくし。となりのお父さんも意外とイケメン。

お母さんの小学校教員時代の写真。はじめて見つけた写真。生徒達は皆、丸刈り、おかっぱ、おさげ髪。学芸会、運動会、修学旅行、入学式、卒業式。何枚も何枚も出てくる教員時代の写真。

赴任先の小学校、どの小学校の写真でも、生徒達はにこにこしてる。お母さんも髪はふんわり内巻きボブ、清楚できちんとした印象の服。生徒達に負けないほどのにこにこ笑顔。どれも、どれも、全部笑顔でキラキラしてる。

小学校、中学校、高校、大学。私のアルバムにはお母さんは、ほとんど登場しません。

仕事仕事で忙しく、参観日、入学式、卒業式、運動会など学校行事に一度も来てくれなかったし、お出掛けも旅行もありませんでした。

いつも「大丈夫よ」と平気そうにしていたけど、運動会で皆が家族でお弁当を食べる中、私だけ一人で食べるのは、さみしかったの。

やっと教員生活も終り、退職後はゆっくりできるかと思ったら、病気の発覚。

お母さん悲しかったね。怖かったね。私も悲しかった。けれど、通院時はいつも一緒で、帰りに買い物したり、お茶したり。はじめてお母さんと一緒にゆったりと時間を過ごすことが出来て。大切な愛おしい日々でした。

入院後、外泊が許された時、玄関で撮ったお母さんと私の写真。お母さんの細い腕が私の腕に“助けて”というようにからめられている。その次の外泊、またその次の外泊、その度にお母さんが細く小さくなっていく写真。

私の頭の中のお母さんは、そんな悲しい写真の中の姿だったの。

でも、今は違う。病気で苦しむお母さんはお母さんの人生のほんの一部。青春時代、大好きな仕事をしてキラキラしているお母さん。笑顔で懸命に駆け抜けた人生。教師として凛と立つお母さんの写真。一枚だけ私の鞄に入れますね。

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