母へ 父へ 50代 東京都 第2回 銀賞

一冊のアルバムがくれた大切な想い
沼 志賀子 様 56歳

手紙イメージ画像

 お母さんが亡くなって18年、お父さんはお母さんが逝ってしまった季節と同じ春に旅立っていきました。

 今は廃虚と化してしまった生まれ育った家に18年ぶりに入りました。二階の本棚で我が生涯と記した一冊のアルバムを見つけましたよ。お母さんが亡くなって5年後にお父さんが整理してまとめたアルバムですね。このアルバムが後何年続くかわからない。有為転変の軌跡と表紙の裏に書いてあるお父さんの元気だった頃のなつかしい字。お父さんが中学5年生の時の学生服姿の写真。同級生6人との写真には自分ともう一人の友だちだけが生き残ったとあります。水兵姿の若かりし頃のりりしいお父さんの写真を見て、「おじいちゃん、かっこいい! 私の好きなタイプ!」という娘の叫び声に、「どれどれ」と夫が覗き込んでいます。きっとやきもちですね。若かりし頃のお母さんとのツーショット写真には人生の開花期というコメント。ないないづくしの中で長男誕生。そして私が生まれ、昭和28我が家の完成。その7年後に庭作り。昭和30土間の台所を板張りに、トイレは水洗トイレに改築。昭和35年にテレビが来た時のことははっきり覚えているよ。テレビに足がついているのを見て、子どもたちがへ~とおもしろがっています。昭和37掃除機、扇風機ボーナスで購入。12800円なり。そして昭和47年から写真はカラーに。私が就職で上京する時の写真には寂しさをこらえて見送り、私の結婚式の写真には淋しくも嬉しい我が家の記念日とありました。淋しそうな素振りはひとつも見せなかったのに。いいえ、きっと、その当時の私には自分のことでいっぱいで思いやる余裕がなかったんですね。アルバムの後半は孫達の写真がページを独占し、昭和62年でおしまい。

 お父さん、お母さん、一歩、一歩、ひとつ、ひとつ、我が家を築いてきたんですね。国に歴史があるように、人にも、ひとりひとりにその人の歩んできた、精一杯生きてきた歴史があることを感じています。このアルバムを見てお父さん、お母さんの孫達も心に何かを感じていますよ。しっかりと何かを受け取っています。何かとは目に見えない、お金では買えない、大切な物です。

 お父さん、お母さん、ありがとう。アルバムを通して感じた大切な物は伝えていきます。それが、お父さん、お母さんの命が繋がっていくことだから。

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