お義母(かあ)さん、もうそちらの生活に慣れましたか。こちらは皆元気に暮らしています。
あなたがいなくなって、もう五年の月日が流れました。
あなたの突然の旅立ちに、家族皆しばらくは悲しむことさえ忘れ、何が起きたのかまったくわからない状態でした。
あなたが歩けなくなり、介護が必要になって、たった一年で逝ってしまうなんて誰も思っていなかったからです。
私は、仕事にかまけて、あなたのことは殆(ほとん)どお義父(とう)さんに任せきりにしていました。もっともっとそばにいて、背中や足をさすってあげたり、話をしたり、あなたの喜ぶことをしてあげれば良かったのに……。本当にごめんなさいね。今も、後悔ばかりの毎日です。
あなたには、娘がいなかったせいもあり、私を実の娘のように可愛がってくれましたね。おかげで、嫁姑問題などとは無縁でした。
お義母(かあ)さん、あなたに感謝することは沢山あるのですが、一番心に残っているのは、長男が生まれた時のことです。
あの年は残暑が厳しく、八月も末だというのに、最高気温が三十五度近い日々が続いていましたね。そんな中、あなたは私が入院している一週間、毎日、冷たい果物を“タッパー”に入れて持ってきてくれましたね。自転車に乗れないあなたは、片道三十分近くかかる道のりを毎日、日傘を差して歩いてきてくれました。あの時の果物のおいしかったこと。
小さな身体のあなたのうしろ姿は、日傘にすっぽりと隠れて、まるで日傘が歩いて帰っていくようでした。私は、病院の窓から、あなたの姿が見えなくなるまで、「ありがとう、お義母(かあ)さん」と心の中で言いながら見つめていました。
私は一度だってあの時の事を忘れたことはありません。それなのに、ありがとうの言葉も言えないまま、あなたは逝ってしまいました。
今度生まれてくる時は、お義母(かあ)さん、あなたの娘になって生まれてきてもいいですか? そして今度こそ、親孝行させて下さいね。