夫へ 60代 埼玉県 第3回 入賞

トーストとコーヒー
伊集院 昭子 様 65歳

 あなた、そちらでは誰が集合をかけているのでしょう。わたしの周りから一人二人とそちらの方へ向かっています。やはり楽しい人の所には、人が集まるのですね。わたしは時折つまらないと感じます。

二人共コーヒーとトーストが好きで、朝食に必ずいただきました。一人になった現在も献立は変わりませんが、コーヒーはインスタントです。あなたのドリップするコーヒーは香り高くて、部屋の空気が変わりました。

分厚いトーストも、今は少し薄めです。あなたの好みは特別に厚かったですね。確かにおいしいと思いました。今よりずっとおいしかった。

入院生活がはじまると、トーストのおいしい喫茶店を見つけたと得意気でした。毎日のように病院を抜け出して食べましたね。あなたには言ってませんが、あなたは命を決められていました。短過ぎました。わたしたちには時間がなかったので、誰もが見ぬ振りをしてくれました。感謝して下さいよ。外食は断じて禁止でした。

十八年が過ぎました。あなたの知らない事がいっぱいです。二人の子供は家庭を持ち子供も授かり、わたしには四人の孫がいます。わたしたちの孫です。幸せをくれます。

孫たちは水泳が得意です。スクールで頑張っています。五年生の玲至はメドレーを、一年生の優衣は平泳ぎとバタフライを見せてくれます。美しい泳ぎに感心します。思えばあなたの得意はビリヤードと水泳でしたね。あなた似かしら、と思ったりします。

孫たちに会えばあなたの話をします。鯨のベーコンが好物だった事も話しました。最近玲至が鯨のベーコンを食べます。ファミリーレストランで見つけたのです。おいしいと言って食べます。何とも言えない心地良さを感じるのです。

 

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