夫へ 70代 大分県 第12回 銀賞

もう少しあなたと生きたかった
後藤 典子 様 75歳

 あなたと出会い十年の結婚生活。それも半分以上がお互いに自宅に住む別居生活で…… 。あれ程入籍しよう、同居しようと言ってくれたのに今となっては、一緒に住めばよかったの後悔ばかり。あんなに早く逝ってしまうなんて思ってもいませんでした。

私は教職に没頭、一生独身と心に決めていました。まさか六十一才の私に七十才のあなたから結婚を申し込まれるなんて夢にも思いませんでした。私は、二回会って話を聞いただけなのに、あなたの慈愛溢れる人柄にひかれ二つ返事で承諾。

数日後、父母の墓前に額(ぬか)ずき「典子さんを下さい。必ず幸せにします」と挨拶。その後、私の入退院に付き添い、一日も欠かさず花の水かえ、ウツに効能のあるマッサージやツボ押しは治療師のように力強くやさしい手当てでした。ある日、友人が「遠方だけどウツを治療できる漢方の先生がいるってよ」と教えてくれました。あなたは次の日、その治療院に車で連れて行ってくれました。

私は九年間に九回の入院で半信半疑でした。私は、助手席でぐったり苦しいばかり。

初めて出会った鍼灸師の先生は、「必ず完治します。食事と薬を守る事」と。それ以来、多忙な活動家で研究を続けているのに、週四回治療院に連れて行ってくれました。お蔭で本当に元気になりました。あなたは約束通り、本物の結婚式を挙げてくれました。二人だけで花嫁衣裳を着て涙がこぼれました。本当にありがとうございました。

それから間もなくあなたは、心筋梗塞、肝癌の再発、癌転移の入院治療等でやっと私宅に同居しました。わずかな間でした。

最後の緩和病棟で苦しい息をしながら「僕は、いつも君のそばに居て支えているよ。一人じゃないよ。僕と一緒だからね」と言ってくれた言葉。私のこれからの人生の宝物です。今日もあなたと一緒に歩いています。

ただ、もう少しあなたと生きたかった。二人で生きて行きたかった。

関連作品

  1. お父さんへ

  2. 義母への詫び状

  3. 星になったあなたに

  4. 「ありがとう」おじいちゃん

  5. 天国のお母さんへ

  6. 古希の聖火ランナー

PAGE TOP