そう、あれは確か私が小学校に上がるか上がらないかのころでしたよね……。
あのころから、人一倍寝つきの悪かった私。あなたはそんな私をよく物干しに連れ出していましたね。そして、二人でじっと夜空を見上げるのですが、あなたは生後百日目に父を亡くした私をよほど不憫に思っていたようで、一際輝く星を見つけると、いつもこんな話をしてくれていましたよね。「すみちゃん、あの星がお父ちゃんぞね。あそこでここにおるき言うて、あんなに光っちゅうろう。あんたを見守りゆうがやきね」と。当時、子供心にも(これはおばあちゃんの作り話や)と心のどこかで感じていた私……。
思えば、あなたはいっつも私のすぐ傍に居てくれましたよね。幼いころ、蒸し暑い夏の日、昼寝をしている私をうちわで扇いでくれたのもあなたでした。「すみえが蚊より先にとれるぞね」と言って蚊取り線香を点けるのを嫌い、蚊を追いながら涼しい風を送ってくれましたね。自分は汗びっしょりなのに……。
春、菜の花が咲けば「すみちゃん、大きゅうなったら菜の花みたいに道端に咲いちょっても、見ゆう人の気持ちを優しゅうさせる人になりよ」と弾んだ声で私に語ったあなた——。それなのに、いまの私はあなたの願いとはまるでほど遠い——。本当にごめんなさいね。
けれど、星の話は今心から信じられるようになりましたよ。なぜなら、この半世紀余の間に何度となく体験した辛いときや悲しいとき、私は確かに目には見えない誰かに光を当ててもらい、その明かりに導かれるようにして跳び越えてきたと思えるから……。
今宵も星が瞬いています。一番遠くで光っているのが父。次があなたでしょうか。そして、一番近いのは母かな……。いずれにしろ、みんなで囁いてくれていますよね。「ここにおるきね」と——。