祖父へ 60代 山口県 第2回 入賞

天国のじいちゃんへ
森川 公子 様 61歳

 じいちゃん、貴方が亡くなって、もう四十年、その年に生まれた私の長女が、四十歳になります。残念ながら、ひ孫の顔を見せてあげられなかったけど、ひ孫の存在だけは伝えられましたね。

 私が結婚する時、じいちゃんに、何がほしいと聞かれ、鏡台がほしいと答えたら、町で一番高い鏡台を買ってくれた。昭和四十年の初め、ほんの少しの年金をはたいて、買ってくれたね。そしてこう言ったのです。

「女は朝に夕に必ず鏡を見るもんだ。そのたびに、じいさんを思い出してくれたらいい」

 そのとおりです。あれから四十年、毎日朝鏡台に向かい化粧をし、じいちゃんおはようとつぶやいて、一日の終わりに髪をときながら、じいちゃん今日も一日済んだよと声をかけました。私の四十年を、じいちゃん、視ててくれたんだよね。恥ずかしくないように生きたつもりだよ。

 じいちゃんは二人の息子のうち一人を特攻隊で亡くしたよね。じいちゃんについてお墓参りに行くと、いつもお墓の前で長いこと手を合わせてた。何も言い残さず、親にさよならも言えず逝った息子。もし、特攻隊だとじいちゃんが知ってても、「行くな」と言えなかった時代。爪だけの骨壷を抱いたときの、じいちゃんの悲しみは、私も親だから解るよ。でもじいちゃんは、全てを穏やかに受け入れて、私達には愚痴めいたことは言わなかったけど、つらかったんだろうね、寂しかったんだろうね、その分私たち孫をかわいがってくれた。土産にいつも、十六個いりのキャラメル一箱、四人で分けるんだよって。あのキャラメルの美味しさは、今も口の中に懐かしく残っています。

 四十年使ってあちこち壊れた鏡台を、私はとても捨てる気になれない。私がこの世にいる限り、じいちゃん、一緒に居ようね。

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