祖父へ 20代 愛知県 第12回 銀賞

戒名の意味
影山 愛里 様 28歳

 今年で十年になりますね。風邪一つ引かないおじいちゃんが癌に心臓を止められた時、私の時も止まったように感じました。寂しくて悲しくて、世界が遠ざかっていくようでした。

生後数ヶ月の記憶がまだ残っています。毎日のように散歩へ出て、「大事な子や」と皆に話してくれましたね。そして、どんな小さなことも「ほい、おりこうさん!」と褒めてくれました。高校生になっても、たとえご飯を食べただけでも。私はそれに救われていました。難病で生まれた自分は、皆のお荷物と思っていたから。おじいちゃんの存在が、言葉が、そんな自分を認める瞬間を与えてくれました。だから、このお別れは自我の喪失でもありました。

葬儀でご住職が、「戒名の意味は『今度は一人にしない』。故人の温情な人柄を表します」と教えてくださったけど、ただ孤独で…… 。その意味に気付き始めたのは五年後のことでした。

入社式で会った同期から突然のプロポーズ! 唐突すぎるし、病気も引け目で断ったけど、「全部含めて『あなた』だから」という言葉に最後は心を委ねました。

結婚して相手を知る程、気付いたことがありました。夫は努力家で、謙虚で、オシャレだけど写真のセンスはイマイチで、ご飯がよく口に付いたままで、牛乳を飲んだ後のコップに平気でお茶を注ぐ人。「おじいちゃんやん!」って家族皆で笑いました。

何より驚いたのが着物です。おばあちゃんが「お父さんきっと喜ぶに」と夫に譲ってくれた形見の着物が寸分たがわずピッタリで。撮った写真には着物を包むように白い光が写っていました。あれは喜んでくれたのですか?

そして去年、娘が誕生しました。小さな掌に特徴的な一直線の手相を見つけました。「こんな所におじいちゃん!!」って皆でまた笑いました。

姿形が無くとも、どこかで面影を見つけては思い出話に花を咲かせる日々です。私たちが一人で寂しい思いをしないよう、皆で仲良く過ごせるよう、寄り添ってくれているんですね。今の私は、妻として、母として、そしてあなたの孫として生きる自分に愛おしみを持っています。おじいちゃん……もう、御礼の言葉も見つかりません。

来週、皆でお墓参り行くでね。絶対、出てきとってね!

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