祖父へ 30代 岡山県 第7回 入賞 広告掲載

赤いリボン
浅野 麻紀子 様 37歳

  おじいちゃんの遺品の整理をしていた時、懐かしいものを見つけました。私が幼稚園の卒園記念に作った灰皿です。大切に取っておいてくれたんだね。灰皿と言うには大きすぎて、大人の私の手のひらより大きいサイズのケーキがすっぽり納まりそう。灰皿のふちに煙草休めをたくさん作ったから、王冠のようにも見えるね。手に取ると、不思議と幼い頃の記憶がよみがえって、あの頃、いつもおじいちゃんが使っていた灰皿が煙草の吸殻でいっぱいだったから、もっと大きな灰皿を作ってあげようと思ったことを思い出しました。おじいちゃんは無口だったから多くは語らなかったけれど、灰皿の内側にカラーペンの底でつけた無数の円の模様をほめてくれたね。贈ってすぐに使ってくれていて、私は得意だったよ。

長い間、使ってくれていたけれど、戦争の古傷が悪化して、おじいちゃんが大きな手術をして退院してからは、煙草がおいしくないと言って吸わなくなったね。いつしか、座卓の上から私の作った灰皿がなくなって、灰皿のことなど忘れてしまっていたのに、きれいに灰を落とされた私の作った灰皿が、透明なセロファンの袋に入れられて、赤いリボンが結んであって、どうして泣かずにいられるの、おじいちゃん。袋も、リボンもあの日のもの。年長だった私から手渡した形のまま、赤いリボンだけが色褪(あ)せて変色していたけれど、おじいちゃんとの思い出は、ずっと鮮やかな赤いリボンのように私の中に残っています。

今、私にも子供ができて、一緒に小麦粉粘土で遊んでいると、小さな手のひらに自分で作ったお皿をのせて「はい、どうぞ」と私にくれるのです。その時、私が感じる気持ちは、そのまま、もしかしたら、それ以上、おじいちゃんが私のことを思ってくれた気持ちなのだと思います。それが、私もわかる年齢になりました。おじいちゃん、ありがとう。私とおじいちゃんの心は、ずっと赤いリボンで結ばれています。

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