あなたの人なつこく、柔らかな声が静かに蘇ってきます。
「先生、クラス編成ができたので見てください」「私は意見する立場じゃないから、自信を持って四月を迎えなさい」と言うと、あなたは「そんなぁ……」と返してくれましたこれがあなたとの最後のやりとりでした。
翌朝、隣室から校長の取り乱した声が響きました。それはあなたの訃報を伝える電話。修了式の前日、あなたは交通事故で短い教師生活に幕をおろしてしまいました。
あなたは知らないだろうけど、副担任の先生が教室であなたに起こった不幸を話しました。直後、二年生の教室から嗚咽の声が重く広がっていきました。そして、翌日の修了式、体育館は悲しみの色に包まれていました。
四月、新年度を迎え、私はあなたが受け持ちたかったクラスの担任になりました。学級開きで、「I先生にはなれないけど、彼の気持ちを大切にして、彼が目指したかった学級にしていく」という誓いを立てたのを今でも覚えています。
おそらく、あなたは、重苦しい空気は嫌いであろうと思い、事あるごとにあなたの思いや願いを生徒たちに代弁していきました。
合唱コンクールの前日、あなたが眠っている町に向かって、私たちの歌声を届けました。私たちが選んだ曲は「チェリー」。コンクール当日、あなたは体育館のギャラリーから笑顔をくれているように感じました。
あなたの夢も叶えてあげました。卒業式前の最後の学年集会で、同僚のギター伴奏に合わせ、森山直太朗の「さくら」を三年教員で歌いました。ちゃんと届いたでしょうか。
あなたが受け持ちたかった生徒たちも成人しました。地域のイベントに顔を出すと、あなたが亡くなる前に見せていた、ステキな笑顔で私を迎えてくれました。
丘の上の白亜の校舎をふと見上げると、あの日、あの時の光景が頭の中で再生されます。