友人知人へ 30代 東京都 第15回 銀賞

えっちゃんへ
後藤 里奈 様 33歳

  忘れもしない二〇一一年三月十一日、あなたは激しい揺れと迫り来る津波に立ち向かい、自分の命を犠牲にして子供達を守りました。恐怖に戸惑い、泣き叫ぶ子供達の安全を第一に考え、一人残らず無事に避難させるため、最後まで誘導していたそうですね。いつも、自分のことより人のことを思いやる、えっちゃんらしいと思いました。でも、どんなに怖かったでしょう。悔しかったでしょう。無念だったでしょう。

 当時私たちは、長年の夢を叶えて教師になったばかり。あなたは地元の小学校、私は東京の高校に就職が決まり、お互い期待に胸を膨らませていましたね。私たちはそれぞれの場所で研修を受けていたところでした。そんな時、突如東日本を襲った大震災。共に同じ夢を追い続けてきた親友を失った悲しみから、私はしばらく立ち直れませんでした。それでも、時は無情に過ぎ去るものです。せっかく念願叶って教師になったのに、いつまでも落ち込んでいたらえっちゃんも悲しむだろうと思い、私はなんとか今日まで教師を続けてきました。正直、「もう辞めたい」と思ったことは何度もあります。けれどもその度、高校時代から励まし合ってきたあなたのことを思い出し、「えっちゃんの分も頑張らなければ」と自分を奮い立たせてきたのです。

 震災から数年後、私たちの故郷ではあの日の記憶を伝え残すため、津波の到達地点に桜が植樹されました。今では復興のシンボルにもなっている桜並木、見えていますか? あの日あなたが命を懸けて助けた子供達は、来年高校卒業を迎えます。必死に自分達を守ってくれたあなたの姿は、きっと彼らの生きる力となるでしょう。教師として、人として、あるべき姿を見せてくれたえっちゃん、ありがとう。二度と同じ悲劇を繰り返さないためにも、辛い過去を教訓として後世に伝えていくことが、残された者の使命なのだと思います。

 私はこれからも、命の大切さ、そして、人のために行動することの尊さを子供達に伝えられるよう、出会った人との縁を生かしていきます。だからどうか、見守っていてね。

関連作品

  1. 親父のこころ

  2. 母を看取る

  3. 母さん ありがとう

  4. お母さんへ

  5. 秋ばばへ

  6. 代筆でごめんなさい

PAGE TOP