あんこへ
餡こが好きだったから、私たち同級生から「あんこ」と呼ばれてたね。
亡くなる一ヶ月前、一緒に食べたデパ地下弁当をペロッと平らげ、「早食いの癖は直らない」と笑っていたあんこ。
あんこは、気立てが良くて優秀で、幼児教育を学んだ私たちのうちで、一番先に園長になった。子どもと食べる食事は、ゆっくりできないものね。
「ガン末期は、介護保険が使えるんだって。お先に使います」と言っていたあんこ。ずっと働いてきたのだもの、年金も納めてきたのに受給しないまま旅立つのだもの、介護保険を使うことにためらう必要なかった。
あんこ、私たちの学年は、還暦を迎えます。
コロナがなければ、皆でクラス会を開催するはずだったけど、せめて、と、教人で集まりました。私たちの主な話題は、「老後をどう生きるか」でした。そして、あんこもいた学生時代の寮で、二十歳を迎えた昔の私たちが、「どんな大人になりたいか」を語り合った日々を思い出しました。もう四十年も経ちました。「あんこには、老後がなかったね」と、友人の一人が言いました。あんこは、老後の心配はなかったけど、「高齢の親より先に逝くのは申し訳ない」って言ってたね。
私たちは、「高齢の親がいるから、旅行にも行けない」と愚痴を言っていたのを止めて、「親を介護できるのは幸せ」と感じました。
でも、本当は、あんこと一緒に愚痴を言いたかった。
私たちは、「あんこの生きられなかった老後を大切に生きていこう」と言って別れました。
空の上から、私たちの老後を見守ってね。
またいつの日か、空の上でクラス会をしましょうね。待っていてね、あんこ!