先生。ずっと内緒にしていたけれど、あなたは私の初恋の人です。目を閉じてあなたを想うとき、大きな垂れ目がさらに垂れて、精一杯笑うあなたの笑顔が浮かびます。あなたの笑顔が今も大好きです。
私は幼い頃より母の虐待と父の無関心の中で育ち、家では無口で笑うこともあまりないまま、高校生になりました。母に期待されることも褒められることもありませんでした。
高校二年生のとき、どうしても生徒会長をやってくれと毎日毎日頼み込むあなたに私は折れ、仕方なく引き受けました。何故私を選んだのか不思議でした。私は自分に自信などなかったし、人の中心に立つような人間ではないと思っていたからです。
文化祭の準備で遅くなり、家まであなたが送ってくれた時、母が「この子暗いし、笑わないでしょ」と言ったのを覚えていますか。私は傷つき、下を向いていました。
あなたは「こいつ、よく笑いますよ。それに先を読んで動ける人間です。なりたいと思うもの、やりたいと思うことは何でもできますよ」と言ってくれました。生まれて初めて私は一人の人間として認めてもらい、あなたの言葉で私の世界は変わりました。
あなたは教師という仕事が大好きで、私が高校を卒業後も、常勤、定時制、さらに部活、生徒会と毎日忙しく、なかなかみんなで集まる機会もありませんでした。
私は七夕の織姫と彦星のように一年に一度でもあなたに会うことができれば、それでかまわない。この世のどこかで私と同じ空気を吸っていてくれればいい。あなたの大事なことに時間を使ってくれれば、それで幸せだと本当に思っていました。
ところが、十五年前の四月七日。教師としての生涯を終わらせる日と決めたかのように、始業式の前日、桜吹雪の舞う中あなたは突然逝ってしまいました。三十四歳という若さで人生を駆け抜けていってしまいました。
後悔しています。こんなにも早くいなくなってしまうのなら、会いたいと一度だけでも言えばよかった。同じ空を見上げることも同じ空気を吸うことも叶わなくなってしまいました。
先生。私は今あなたにもらった笑顔で、前を向いています。あの頃のように自信なく下を向くことはなくなりました。あなたのように人生を一生懸命走り抜いたら、会いにいきます。