季節の花々を目にする度、父さんが大切に育てた庭を思い出すよ。暇さえあれば庭の手入れしてたね。お陰で四季折々に咲く花は、どれも綺麗だった。今でも家に帰れば、あの庭に父さんがいて、まっ黒に陽焼けした顔で「お帰り」って、笑ってくれそうな気がする。いまだに父さんがいない事が信じられない。
十七年前、母さんが亡くなった時、父さん言ったよね。「母さんは幸せだ。家族に囲まれて逝けたんだから」って。その時、私、父さんに「私が側にいるから大丈夫」って言ったのに。絶対一人で逝かせたりしないって誓ったのに。結局、一人で逝かせてしまった。本当に本当にごめんなさい。病室で一人だった父さんを想うと苦しくて、本当に申し訳なくてたまらなかった。どうしてもっと早く駆けつけてあげられなかったのか。せめて「ありがとう」って、伝えたかった。父さんの手を握って、今まで私をずっと見守ってくれた事のお礼を言いたかった。心配ばかりかけて何の親孝行もできなかった娘でごめんね。でも、私は父さんの娘で幸せだった。いっぱい愛情をかけてもらって、助けてもらって、本当に本当に幸せだった。
特に、私が結婚して、なかなか子供に恵まれず、不妊治療をした時。年齢的にも焦ってた私は、心身共に壊れかけてた。そんな時、父さんは治療を止めろって言ってくれた。まず休めって。自分を大事にしろって。父さんの言葉で、憑き物が落ちたみたいに、自分に戻れた。その半年後、自然に妊娠して待望の息子を授かった。信じられなかったよ。奇跡だと思った。しかも無口で頑固な父さんが、あんなじじ馬鹿になるなんて夢にも思わなかったし。疳かんの強い子で夜泣きもひどかったけど、父さんは泣き止むまで、ずっと抱っこしてくれたよね。おムツ替えから入浴まで、ほとんど父さんが育てたようなものだった。
あの子がね、十八歳になったんだよ。成人なの。今年、医療大学に入って、看護師になるって頑張ってるよ。患者さんの側にいて、辛い時に寄り添ってあげられる存在になりたいんだって。いい子に育ったでしょう。父さんの孫だからね。私が父さんにしてあげられなかった事を、してくれるような人になってくれるのかなって、うれしかった。
父さん、私の想い、届いたかな。父さんが私にしてくれたように、私も家族を大切にしていくね。だから、これからも見守っていて。