昔、子供だった頃、お父さんとよく手をつないで歩いてたね。お父さんの大きな手が、私の小さな手をぎゅっと握る。今度は私が、ぎゅっと握り返す。無口なお父さんとの会話は、お互いの手でだった。何もしゃべらないのに、楽しかったね。
お酒のおつまみを買いに行くと、お父さんはいつも殻の付いた落花生。私達子供は、キャラメルだった。一箱ずつのキャラメルがうれしくて、何度もぎゅっぎゅってしたよね。お父さんもうれしそうに、ぎゅっぎゅっと返してくれた。
なのに気付けば長い反抗期。お父さんが大工だということが私はいやだった。手に職があるという素晴らしさを、子供の私は知らなかったの。ごめんね。
ほとんど口をきこうとしない娘なのに、お父さんから叱られたことは一度もなかった。子供達三人とも。その分、お母さんがこわかったけどね。
ただただ真面目で、心優しいお父さん。お父さんが亡くなった時、私達以上に、会社の皆さんが泣いてくれた。愛されていたんだなーと、お父さんを誇りに思いました。
病院で、少しよろけたお父さんの手を、思わず握った時があったね。細くて弱い手だった。子供の頃、ぎゅっとしてくれた、力強い大きな手ではなかった。それでもぎゅっと私が握ると、ぎゅっと握り返してくれた。長い病院の廊下を一歩ずつ、二人で歩いたね。何も話さなかったけれど、神様のくれた時間だったような気がします。
今朝も、お父さんとお母さんの写真に「おはよう」の挨拶をしています。これからも、子供達や孫達のことを、見守って下さいね。
生真面目そうなお父さんと、ちょっと気取って笑っているお母さんの写真に、私はいつも励まされています。