父へ 40代 千葉県 第1回 入賞

お父さん…
小野寺 美代子 様 45歳

 私の知らない世界に行ってしまってからあっという間にというにはほど遠かった一年がもうすぐ過ぎようとしています。

 入院生活も三ヶ月が過ぎようとしていたある日、病院から危篤との突然の知らせ。その二日前、お見舞いを終えて帰ろうとしていた私にもう帰るのか? 目が良く見えなくなってきたんだ。俺はもうすぐ死ぬんだから死んでから帰ってくれ!と言いましたネ。気の弱いお父さんのいつもの事だと気にも止めずに帰ってきてしまった事、最後のサインに気づいてあげられなかった事、今でも心の一番深い所に引っかかり続け、自分を責めずにはいられません。

 お母さんが倒れて入院し、目に見えて弱ってしまってひとりぽっちの部屋で、食事も取らず、たばこばかり吸っていたお父さん。心配ばかりかけてきた私の最初で最後の親孝行と私の所へ来てもらったけど、本当は大好きな家で過ごしたかったんじゃないかな? かえって淋しい思いをさせちゃったんじゃないかな? 後悔ばかりが押し寄せて思い出すたびに切なさで胸が痛くなります。

 自分の事より何より、最後の最後まで半身不随になったお母さんを心配し、うわ言のように言い続けたお父さん。ひとりぽっちで危篤状態に陥り、最後の憎まれ口も聞かせてもらえないまま逝ってしまったけれど、最後に何を言いたかったんだろう、何を伝えたかったんだろう、そんな事を考えながら寄り添い眠る私の元に会いに来てくれましたネ。あの穏やかな優しい笑顔でお母さんのこと頼むな…”って大丈夫、もう何も心配しないで、ゆっくり休んで下さい。

 頑固で無器用で損ばかりしていたお父さん。今、何処に居ますか? そちらから私の事見えますか? あの日から一年、高くなった空をふと見上げながら静かに深呼吸をして、込みあげてくる熱いものをぐっと飲み込みました。

 お父さん、お父さん、もう一度逢いたい。

 小さな頃繋いでくれたその手を優しく包んであげたい

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