母さん、そちらでの暮しはどうですか。どうですかって聞くのもちょっと変かな。いつも見守っていてくれてありがとう。いつもつまらない愚痴を聞いてくれてありがとう。心を支えていてくれて本当にありがとう。
早いもので、僕が首の骨を折り、全身マヒの障がいを負って三十年。母さんが天国へ行って二十七年、すっかりおじさんになったけれど、きれいな体形は保っているよ。
でもあの日、薄暗い病室で母さんが、目をまっ赤に腫らしながら、感覚もなく動かなくなった僕の手をしっかり握りしめてくれながら、生きていてくれてありがとうと、僕の涙を何度も何度もぬぐってくれたこと今でもはっきりとおぼえているよ。
そして母さんは、自分の命を削るように、また絶対に動けるようになるから、その時に関節がかたくなってたり、変形していたらいけないからと、毎日、午前二時間、午後三時間、手足のすべての関節を動かしてくれた。床ずれが出来ないようにと、倍以上もある僕の体を腰をさすりながら、夜中でも二時間ごとに向きを変えてくれた。食事の介助、下の世話など二十四時間介護をしてくれた。
だんだんと小さくなっていく母さんに気づかず、自由にならない体のイラ立ちを全部ぶつけてしまった。何十回も口ゲンカをした。グラジオラスの花が好きなことをはじめて知った。父さんとかけ落ちした話を照れくさそうに話してくれた。強くてとてもやさしい母さんだったのに、ごめんね僕のせいで……。
でも百万回ごめんと言うより、一日でも長く、笑顔で元気で生きていることが、今の僕に出来る唯一の親孝行だと信じて、母さんが残してくれた力を心の支えにあの日から頑張っています。
だから今はまだ会いには行けません。何年か後、何十年か後に会った時には、おじいさんとなった僕とデートして下さいね。母さんありがとう。そして全世で一番大好きです。