父へ 20代 青森県 第1回 佳作

お父さんへ
八木橋 広美 様 24歳

 お父さん、私は前よりも少し、料理がうまくなったよ。

 あの日の事を覚えていますか。私が昼食を作っていた時。「お父さんのは?」と言われ、私の放った言葉。「自分で作れば」それ以来、ほとんど目を合わせることもなく、会話することもなく、お父さんは帰らぬ人となってしまいましたね。

 いつからだろう。私は何年も「お父さん」なんて呼んでいません。なんでだろう。   「お父さん」って呼ぶのは恥ずかしかった。お父さんとお母さんが離婚してから、どうしていいかわからなかったあの時の私は、結局どちらにも背を向けて、世界中で一人ぼっちになってしまった気がしていました。お父さんとまともに話したのは何年前かな。病気にむしばまれていくお父さんに、やさしい言葉ひとつかけてやれなかった、ばかな娘です。

 本当は言いたいことが沢山あった。言わなければいけないことが沢山あった。ありがとうとか、ごめんなさいとか。簡単な言葉がどうしても言えなかった。反抗期が、長すぎたんだ。

 お父さんとした最後のケンカ。お父さん。あの時ね、お父さんに料理作ってあげたくなかったんじゃないんだ。あの時のチャーハン、正油を入れすぎちゃったんだ。今更言っても、遅いけど。

 私は世界で一人ぼっちじゃないって、本当はわかってた。今、思い出したんだ。仕事の帰りが遅い私を、いつも無言で待っていてくれた。私が恐がりな事を誰よりも知っている。「はやく寝れば」なんて言って、ごめんなさい。もう、家に帰っても、居間に明かりがついていない。お父さんは、死んじゃったんですか。

 葬式では、泣かなかった。だって、ケンカしてたんだもん。

 お風呂場で、思いきり泣いた。だって、悲しいんだもん。

 私は、お父さんからの愛をうけ、お父さんが生きたかった今日を生きます。そして、今いる私の家族を大切にします。いままで育ててくれてありがとう。本当は、ずっとずっと伝えたかった。

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