お母さん。あなたの声、におい、十年経つ今もまだ覚えています。思い出す回数は減っても、思い出の深さはかわりません。
お母さんが亡くなって、何度会いたいと願ったでしょうか。一人だったら、ゆうれい姿で出てきてくれると信じ、おはかに通った事もありましたね。あの世で笑って見てたかな、泣いていなければいいのですが。
お母さん。私はお母さんが亡くなった後、家族をまとめる役の難しさや、大人のつきあいが大変だという事を知りました。それから念願の職につき、結婚もしました。出産もしました。どれもこれも、よく出来た娘さんね、とほめられるけれど、一番ほめて欲しい人はお母さんです。
お母さん。あなたがいなくなって、父は強さが薄れ、弟は笑顔が薄れたように思います。女は強いだとか、お姉さんがいるから安心と言われますが、私も辛く淋しいです。お母さんに会いたいです。
お母さん。私、がんばってきました。母がいなくても強くのりこえてきました。けれど今、はじめてつかれてしまいました。
子を持つ親となり、実家のない育児は辛いです。お母さんにいつまでも甘えてはいけませんが、実家がない子育ては、戦いばかりです。少しだけ、この世に戻って来てくれませんか? 会って私や娘とお茶を飲みませんか?
預けたり、頼る事のできない育児は辛いです。どうしても、他のママさんと比べてしまいます。弱い娘でしょう。
でもね、お母さん。ふと思います。娘にとって私はお母さん。今度はあなたのように、強くしっかりしなければいけません。娘にとって私の声やにおいを、できるだけ多く感じる事が出来るように。だから、元気でいなくてはダメでしょう?
お母さんに会うのは、うんと先になります。それまで、笑顔で待っていてね。