粋で、おしゃれで、ユーモアたっぷり。明治生まれのおばあちゃんは、私の憧れでした。お互いに気が強くて口も悪い。しかも似た者同士の二人だから、よくケンカもしたよね。でも、子供の頃から、ずっとあなたが大好きでした。
ある年のクリスマス。二人でケーキを食べていたとき、急に
「来年は天国でクリスマスかな…」
なんて言い出した。いつもそんな事を言ってまわりを笑わせる人だから、私も
「天国だったら、静かなクリスマスだね」
なんて返したよね。すると、今度は子供のようなふくれっ面をして
「えー、やだやだ。静かじゃたいくつだよ。好きな物たくさん持っていこうっと」
と言い出して、二人で笑った。でも、その後
「だけど、一番大切な宝物は持っていけないのよね」
と、真剣な顔でつぶやいた。
「どうして? 持ってけばいいのに」
と言う私に、あなたは、私の手を握りしめながら、こう言ってくれたよね。
「だって私の宝物は、あなただもの」
その言葉に、びっくりして
「何を冗談言ってんのよ」
なんて、照れ笑いしてしまったけど、本当は、涙が出るほど、うれしかった。目の前で泣くと恥ずかしいから、家へ帰って思いきり泣いたんだよ。ほんとにうれしかった。
次の年の夏の終わり、まるで夏の花が枯れるように旅立っていった。美しい最期だったよ。さみしくないといえば嘘になるけど、私は大丈夫。だって私の中で、おばあちゃんの存在が、変わらずに大きいままいてくれる。
あのクリスマスの日、私を宝物だと言ってくれたあの言葉、そしてあなたが握ってくれた手のぬくもり。それが、私の一番の宝物です。