じいちゃんに会いたい。じいちゃんのゴワゴワした手を握らせて欲しい。
じいちゃんは、何でも見通していた。幼い頃、お母さんに連れられ、何度か田舎に帰る度、じいちゃんは、じっと私を見つめていた。見開いた目には、薄っすら涙があった。
無口なじいちゃんは、「よう帰って来たなぁ。大きなったなぁ」なんか一言も言わず、唯、「川へ行こう」とだけしか言わなかった。川釣りが好きなじいちゃんは、私を車の助手席に、まるで荷物を載せるようにポイッと乗せ、デコボコの農道を突っ走った。私が横で、助手席から転げ落ちようが、ひっくり返ろうが、じいちゃんは、怒ったように前を向いたままだった。本当は、私、怖かったんよ。じいちゃんは、何かで私に腹を立てていると思って‥‥。
川に着いても、何も話もせん。じっと、じいちゃんは、糸を垂れ、私はじいちゃんの横に座っているだけ。幾匹か釣ったら、同じように無言で家に戻った。
そんな事を繰り返し、私が十二才になった時、また、いつものように、じいちゃんに川に連れていってもらった。もう、その頃には、じいちゃんの寡黙さに慣れていたから、あまり気にも留めなかった。ところが、じいちゃん、川に入ってから、私の方を振り向いて、初めて口を開いた。「辛抱せえよ」
目には、涙がいっぱい溜まっていたね。
お父さんに先立たれたお母さんは、私を連れ、再婚した。私は、厄介者だった。いつも部屋の隅で下を向いていた。目立たないように……。
じいちゃんは川から真っ直ぐ私の方に来て、私の瘤だらけ頭をそっと、撫でてくれた。じいちゃん、その時初めて気が付いたよ。じいちゃんが私を不憫に思ってくれていると。じいちゃん、ありがとう。ほんまに無口やから、分からんかったよ。今もはっきり覚えている。じいちゃんが私の方を振り向いた時の顔。私、辛抱したよ。だから、もう一度だけ、頭を撫でて欲しいよ、じいちゃん。