ひまわりさん、お久しぶりです。
勝手に「ひまわりさん」と呼ばせてもらっています。いいよね。
あなたとの突然のお別れから九年、たった三回しかお会い出来なかったね。
最近では、歳のせいかあなたの顔がはっきりと思い出せなくなってきました。ただ不思議ですね、あなたの言葉や声は今でもはっきりと覚えているんですよ。
出会ったのは、当時まだ珍しかった免疫療法やがんの最先端医療に特化した大阪のクリニックモールの一角。
あの時、私はがんの告知を受けた直後で、肉体的にも精神的にもどん底状態。病院を出るまでスローモーションで動いてる感じだったんですよ。
たくさんの人で行き交う、モール内の飲食店の前で立ち尽くしていました。驚き、不安、嘆きでいっぱいの、今にも泣きだしそうな私に声をかけてくれましたよね。
「決められないよね、みんな美味しそう」後ろからの声に驚いて振り返ると、笑顔のひまわりさんがいたんです。
「ええ、そうですね」私は適当に返事して去ろうとしたら、「ねえ、これ美味しそう、一緒に食べませんか。私もひとりなんで」とにっこり。
断るつもりが私はなぜか「はい」と返事してたんですよ。
食事をしながら、今治から大阪まで毎月がんの免疫療法に来ている事を、嘆くでもなく笑顔で話すひまわりさん。
初対面だけど同じ病気という事もあって、いろいろ話せたのかもしれませんね。
私は病気の事、仕事の事、家族の辛い出来事までも洗いざらい話していました。「なんで私ばかり、しんどい事を引き受けるんだろうか」と。
あなたは、黙って、私の話を聞いてくれてましたね。
話のあと「悪く考えすぎ」「人生はいろいろ」「頑張ろう」とか、言われるのかなと思っていたら、 「そう、そう―あんたの言う通り」と全て肯定。なんだかんだと一緒に私の思いに付き合ってくれましたね。
全部受け入れてくれている、そう思った瞬間こらえていた涙が溢れました。
それから、毎月会いましょうと約束。八月、九月、と治療のあとのご褒美のような時間、楽しかったですね。
しばらくして、あなたから届いた今治名産のタオル。じゃ私もお返しにと香りの贈り物、これからもそんな日が続くと思っていた矢先でした。ご主人様からあなたの急逝の知らせを受けました。悲しかったです、もっと話したかったです。あなたも不安で一杯だったはずなのに、あなたはいつも笑顔でした。だから、ひまわりさんと呼ばせてね。
あの日、あの時、あの人混みの中、私を見つけてくれてありがとう。寄り添ってくれてありがとう。