お母さん、平成7年1月9日、あなたが94歳で永眠してから、もう22年も経つのね。8日後には阪神大震災があったので、あなたの命日は忘れることが出来ません。
晩年のあなたは、脳血栓の後遺症で右半身が不自由になり、特養ホームでお世話になっていましたね。勤め帰りに毎日面会に行ってたある日、担当の寮母さんが「お母さんは歌が好きでよく口遊んでおられるよ。それに雨の日が好きみたい。どうして?と聞くとね、畑仕事をしなくていいからだって」と話された。
あなたは女学校を卒業して、数え年18歳で地方地主の長男と結婚。夫の弟妹や、農作業の手伝い人も居る大家族の中で、姑さんの言われるとおりに家事をこなし、一度も経験のなかった畑氏との手伝いもよくし、「良い嫁が来てくれた」と評判だったそうね。お産の後も3日間休んだだけという丈夫な体が自慢だった。「雨の日が好き」だなんて、娘の私も知らなかった話を90歳を過ぎた今、なぜ寮母さんの話したの?明治生まれの女性たちは、「良妻賢母は忍耐」と教えられていたのかな?畑仕事はよっぽど辛かったのね。そういえば、車椅子から窓の外に降る雨を眺めながら涙ぐんでいたことを思い出したわ。胸の奥に秘めた思いがあったのね。歌好きなことは、「母親の歌う琴歌でお前は眠っていた」という祖母の話で知ってたの。だから大きい字の童謡の本を買って行き、一緒に歌うのが日課になったのよ。ねえお母さん!
「どんぐりコロコロ、ど(・)ん(・)ぶ(・)りこ(・・)だよ」と注意してもどうしても直らず、最後まで「どんぐりコロコロ、どんぐりこ」で通したわね。ホームの人がみんなで拍手してくれたよね。末っ子で甘えん坊の私の看取りだったけど、楽しいひとときだった。笑顔を絶やさなかったあなたは、ホームの人に愛された。お母さん、「人にされて嬉しかった事を忘れるなよ。今度はお前が人様にしてあげるんだよ」と教えてくれた言葉、子どもに伝えていますよ。