父へ 40代 長崎県 第13回 入賞

お父さんへ
片山 幸子 様 48歳

 写真の中のあなたは、今にも声を出して笑いそうです。「人の中に入って行け、人に好かれる人になれ」。社会人になったばかりの私によくそう言っていましたね。それに対して、私は「無理して人に好かれなくてもいい」とよく言い返していました。

社会人になったあなたは、大企業へ就職したのに、母が倒れ長男だった為(ため)、会社を辞めて地元の小さな会社で働きました。きつい仕事も一家を養う為、何でもしてくださいました。あなたの弟は言いました。「自分が好きなことが出来たのは兄のおかげだ」と。

そんなあなたは五十代の頃、心臓の大手術をしました。それからは思ったように仕事も出来なくなり、歯がゆい思いをしていましたね。

そんな中、月に一度の心臓の定期検診で、すい臓ガンが見つかり、余命半年と告げられたのは五月のことでした。「とうとう命の寿命を人に決められるようになったか……」。悲しそうにそう一言つぶやいたあなたの顔が今でも忘れられません。

通院の度に訪れた待合室では、あなたは色んな人たちに「今日はどうしたね? 大丈夫ね?」って声をかけて話していましたね。腹水が溜まって自分もきつい時もいつも笑顔で。そんな場面を見る度に私はこっそり泣いていました。病院の先生や看護師さんにも「おーい」と手を挙げて話したり、あなたの周りはいつも温かさで溢れていました。

十一月、七十九歳であなたは大好きな刺身やスイカを食べて旅立ちました。葬儀の日、会場は入りきれない人たちでいっぱいになりました。

「人の中に入って行け、人に好かれる人になれ」=(イコール)人とかかわり、出会った人たちを大切に、人を思いやれる人間になれ。あなたの言葉の意味がやっと理解できた瞬間に、涙が溢れました。母と三姉妹で自宅で見送ることが出来、私たちはとても幸せでした。

「お父さん、次、生まれ変わった人生は、どうかあなたの思い通りの人生でありますように」

そして、もう一度できることなら、あなたの娘たちでありたい。これからも、父のその思いを胸に大切に、生きていきたい。

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