その他親族へ 60代 大阪府 第13回 銀賞

笑顔の宝物
清水 千代美 様 69歳

 貴女の息子は六才になります。そして貴女が逝って六年を数えます。

妊娠中にわかった癌、何度も何度も家族で話して。おとなしく控えめな貴女の初めての自己主張「産みたい」、なんと頑固だった事か。もうお腹の赤ちゃんの立派なママだったんだよね。最後は、貴女の強い決意で小さな生命を迎えました。母になった貴女は、神々しい程の美しさでしたよ。

ママになって五ヶ月目。ずっと笑顔で癌と闘っていた貴女が、初めて苦しいと訴え病院へ、もう帰ってはきませんでした。あの日の強い瞳の色は決して忘れられません。「お願いします」と、この腕に渡された赤ん坊は、とても軽くてそして、ずしりと重かった。

正直、覚悟はしていたけれど、なんでだよって叫びたかった。私ね、本当は自信なかったの、ただこの子を抱きしめるしかなかった。息子との同居、これからの育児、精神的にも体力的にも余りにも真っ白。夜中にミルクを飲ませながら、写真の前で何度も泣きました。ごめんね、心配をかけたよね。

そんな私を支えてくれたのは、いるべき場所にいない貴女でしたよ。そんな時の貴女はいつも笑ってた。癌。怖かったはず。貴女はでも笑顔だった。

本当は甘えんぼの末っ子。お願いします、お願いしますって、私に教えてくれてたんだよね。強くなる心の笑顔を教えてくれた。赤ん坊の未来を誰よりも信じて。

私、今、何とか頑張ってます、安心してね。モットーは笑顔。ママ友に元気なお婆ちゃんて呼ばれてます。

幼稚園で、お友達にママはと聞かれるみたい。ママはお写真だよ、死んじゃったと答えたよと笑顔。強く優しい、とても良い子です。時がくれば教え伝えねばと思います。命はどれ程に大切か。ママの強い覚悟と笑顔で迎えた貴方は、どれだけ愛され望まれた存在なのかと。ママは貴方の未来を信じてる、だからきっと今も笑顔だよと。

見ててくださいね。育児っていつも、喧嘩をしたり、叱ったり、泣いたり、迷ったり。私、笑ってますか。笑顔ですか。駄目な時は雨でも降らせてください。

本当に有難う。こんな素敵な宝物を残してくれて。

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