母へ 40代 福島県 第12回 入賞

赤いカーネーション 母へ
佐川 洋子 様 47歳

 今年もまた、あなたの誕生日がきました。カーネーションが好きだった母。記念日には沢山の赤いカーネーションを贈ると、うれしそうに笑ってくれましたね。

あなたは自由な人でした。先の心配はせず、今という時間を自分の心のままに生きていた。その尻ぬぐいをする度に、子供の様に笑っては「いつも周りに心配ばかりかけてごめんね」とさらっと言う。そんなあなたに冷めた目を向け、優しくする事ができなかった私。歳をとってからは、後悔ばかりを口にしていましたね。自分が失ったものの多さに、落胆してもどうする事もできない。寂しそうな丸まった背中を見る度、胸がつまる思いでした。

あなたが居なくなって、心に小さな穴ができた様で、何かが足りない様な毎日を送っています。理想的な母でなくとも、ただ生きていてくれるだけで、私の心の支えになっていたのだと思いしらされます。そんな風に、思ってみても、過ぎ去った時間をとり戻す事はできないから、私はあなたの誕生日に、赤いカーネーションを贈ります。花言葉は、「母への愛」。私を産んでくれてありがとう。あなたが居たから、私はここに生きていて、愛する家族にも巡り会う事ができた。本来母へ持つべき想いは、ただそれだけで十分なのに、感謝を伝える事ができなかった自分を悔やみます。自由に生きる難しさを知れば知る程、あなたの孤独と、強さを感じます。

私にとって素晴らしい母ではなかったけれど、あなたは私に、大切なものは何かを教えてくれた。だから何の引け目も、何の後悔も、何のざんげもせず、あなたらしい、はれた気持ちでそちらの世界でも笑っていてください。目を閉じるといつでも、あなたのくったくのない笑顔が浮かびます。あなたの娘に生まれてよかった。ただそう思うだけで、この険しい人生の中の生きる力になるのです。

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