人通りのない道端で、一瞬だけ目を閉じて歩いてみる。
目が見えないことがこんなにも不安だなんて、幼い頃の私は気付かなかった。おばあちゃんはいつも私の前でニコニコ笑って何でも出来るおばあちゃんだったから。
通っていた小学校の近くに住んでいたから学校帰りによく遊びに行ったよね。おばあちゃんの入れてくれる少し濃いめのカルピスが大好きだったなあ。
近所の駅までおばあちゃんと手を繋いでお散歩するのも好きだった。「猫がいるよ」「どんな色?」「白にちょっと茶色が混ざってる! 」「わあ~ かわいいねえ」。何でもない風景を伝える度におばあちゃんがすごく嬉しそうに聞いてくれるから、私は嬉しくなって目に見えるものぜんぶ報告したよ。
お正月に食べられる、家族みんなが大好きなおばあちゃんのお煮しめ。目が見えないのに何でご飯が作れるのか不思議でじっと見ていたことがある。野菜を手際良く切って、慣れた手つきで調味料を入れる姿に、ほんとは見えてるでしょ? と言った気がする。おばあちゃんは「慣れだよ」と笑っていたね。
おじいちゃんが亡くなって、それから一年後におばあちゃんも旅立った日。家の片付けをしている時に出てきたアルバムの中に、二人がラベンダー畑で並んで笑っている写真を見つけたよ。まだおばあちゃんの目が見えていた頃の写真だってお父さんが言っていた。本当に綺麗で幸せそうで、お葬式の間我慢していた涙が止まらなかった。
おばあちゃん。私は今でも時々道端で猫を見つけたり、虹が出たり、綺麗なお花を見ると心の中でおばあちゃんに報告しているよ。何気ない風景がこんなに愛おしく思えるのは、きっとおばあちゃんのおかげ。
天国でそんな素敵な風景を眺めながら、おじいちゃんと手を繋いでデートを楽しんでるといいな。