祖母へ 30代 埼玉県 第12回 佳作

ばあちゃん、捨てらんない
松崎 有美 様 35歳

 ばあちゃん、私、捨てらんない。

ばあちゃんに縫ってもらった手さげ袋。小学校入学のときの。目が悪いのにわざわざ妹と間違えないように名前が書いてあってさ。でもびっくりしたよ。「ツライユミ」って書いてあんの。多分「シライ」って書いたつもりだったんだよね。今でも見るとなつかしい。

幼稚園の時もそうだった。私は母ちゃんがいないから、ばあちゃんが全部やった。弁当も幼稚園の準備も。私はすぐなくすから、持ち物には全部名前を書いてくれた。それも全部「ツライ」だった。

だから小学校でカタカナを習ったときは苦笑いした。ばあちゃん、頭悪いなって。だけどクレヨンやえんぴつ、一本一本に名前を書いてくれた恩は今も忘れない。ばあちゃんをママって呼んで、友達にバカにされたけど、私、全然気にしなかった。だって、ばあちゃんってグランドマザーじゃん。大きい母ちゃんってことでしょ。むしろ私には自慢だったよ。

ばあちゃん、私、捨てらんない。ばあちゃんがボタンをつけてくれた夫のワイシャツ。米寿の祝いを小料理屋でやったとき、ワイシャツのボタンがとれてさ。「いいから脱げ」って言って縫ってくれたよね。ばあちゃんは目が悪いから、なかなか針に糸が通らなくてさ。だけど背中を丸めて一生懸命つけてくれた。その小さい背中にちょっと詫びた。私はずっとばあちゃんに迷惑をかけっぱなしだったな。

あのワイシャツさ、見たときは驚いたよ。だって白いシャツに赤い糸なんだもん。たしかに赤と白でおめでたいけどね。だけどもうその時には色の区別がつかないくらい、目が見えなかったんだよね。ばあちゃん、大変だったのにありがとう。長い間、本当にありがとう。

ばあちゃん、聞いて。夫がね、いつか娘とバージンロード歩く時にこのワイシャツを着るんだって言ってるの。どうかな。赤と白でおめでたいよね。ばあちゃんも空から見ててね。

 

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