父へ 50代 福島県 第11回 入賞

お父さんへ
伊東 由美 様 55歳

 「ホーホケキョ・ケキョケキョ」

鶯の声だ、上手になったね。ちょっと前までは、へたっぴいで一生懸命練習してたの知っているよ。「ピーピー、ピピピ」んん……この声は誰?

家の近くの大きな公園を歩いていると、いろいろな鳥たちの声を聞くことができて楽しいよ、お父さん。

白と黒の体でスマートで、尻尾を上下に揺らしながらピョコピョコ歩き、くちばしに挟んだ芋虫をはなさないでまっすぐに逃げる。なぜ横の山に逃げていかないんだろうと思いながらも、軽やかに逃げていく鳥。何て名前なの?

本当に、かわいいし癒されるわ。早速、お父さんの使ってた35年前の定価3,000円の「鳥の図鑑」で調べたよ。それは多分「セキレイ」だと思う。お父さんわかる?かわいい鳥だね。「鳥の図鑑」大事に持っているよ。お父さんの名前も書いてあり形見だね。

よく「俺は老後、山の方に行って鳥の声を聞きながら穏やかに暮らすんだ」って言ってたね。子供だったけど覚えているよ。海の近くで生まれて過酷な船の仕事に就いて、家族の為に無理をして働くだけ働いて、50歳で死んでしまった。私たちの、運動会もお遊戯会も見たことないもんね。頑張り屋さんだったんだよ私。自分で言うのも変だけどね。

お父さん、きっと、いつもいつも精一杯できつかったんだろうね。一言も愚痴言わないで自分に厳しくちょっとシャイで、動物が大好きなとても器用な働き者で、お母さんを大切に親戚を大切にしてくれてた。仲の良い夫婦の姿は誰にも負けないよ、きっと。

今、私は55歳。ちょっとだけ、お父さんの気持ちがわかる気がする。

だからかな、最近公園で鳥たちの声を聞きほっこりしていると、「老後、心穏やかに鳥の声が聞こえる場所でのんびり暮らしたいな……」って思う自分がいて。

遺伝かね……。いいもんだよね。お父さんやっぱり親子だな……って思うよ。

お父さん、いろいろ「ありがとうございます」きちんと言ったことなんて一回もない言葉だね。

山も谷も、涙も笑いもありへこんだり立ち直ったり、ちっぽけだけど楽しい人生を頑張っておくっているよ。

お父さんへ                                        娘より

P.S.柴犬のメリーと太郎とオウムのピーちゃんに会えましたか?

 

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