父へ 50代 奈良県 第11回 佳作

自慢の父さん
城田 由希子 様 55歳

 父さん、入院してからたった一週間で誰にも看取られず、母さんのいる天国に旅立ってしまったね。病院からの知らせを受けて駆けつけたけど、間に合わなかった。

その後、私は父さんに優しく接することができなかった数年間が忘れられず、後悔の気持ちで押しつぶされそうな日々を送っていた。

ある日、父さんの携帯に、年輩の女性から着信があった。伝言を残してすぐに切れた。

「お元気ですか? ご無沙汰しております。またお電話しますね」

私は、思い切って着信番号にかけ直した。

「私は娘です。父は先月亡くなりました」

女性の息をのむような音が聞こえたんだ。

「申し上げる言葉も見つかりません」

電話口からは絞るような一言。そして泣き声。父さんを思って涙を流してくださる方がいたんだよ。涙があふれてきた。会ったこともない人に、気がつけば辛い心境を話していた。続いて女性の穏やかな声が語り始めた。「私は、子どもの頃からの友人で、ときどき電話をしていました。お会いしたことのないあなたとご家族のお顔を私は知っています。数か月前、僕の娘家族なんだと写真を送ってくださって、今、私の手元にあります」

そう言えば、父さんが珍しく私の家族と一緒の写真が欲しいと言い出し、カメラで写真を撮ったことがあったね。みんなの笑顔がなかなかいい、上出来だよと父さんが大満足していたあの写真だよ。

「お礼の電話をすると、自慢の娘なんだとうれしそうでしたよ。充分優しくしてこられたのだから、後悔せず元気に過ごしてくださいね」

電話を切って、例の写真を見たよ。父さんの笑顔はとびっきり素敵だ。横で私も笑ってる。「自慢の娘」その一言で心がふっと軽くなったよ。父さん、そう思ってくれていたんだね。すごくうれしくて、救われた気がしたよ。今頃、遅すぎるって言うかな。父さんも、私にとって永遠に「自慢の父さん」だからね。

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