一良が旅立ってもうすぐ2年。野球部の同期18人のまとめ役で1番の健康体だったはずのお前が最初に旅立ってしまうなんて思いもしなかった。いつもお前に頼り切っていた俺たちは、まるで監督が突然、ベンチから消えてしまったチームみたいだ。
一緒に白球を追い続けたのは今から約40年前。炎天下で、監督から「終われ」の声が掛かるまで、ひたすらグラウンドを走り続けた夏休み。練習帰りのコカコーラとアンパン。ファウルボールが見つからず、暗くなるまで1個のボールをみんなで探し続けた夕暮れや、練習終了後、先輩に叱られて、暗闇の中で「うさぎ跳び」と「正座」に耐えた日々のこと。そして、1つ年上の先輩たちと初めて甲子園出場を決め、春の選抜甲子園大会の宿舎となった旅館で初めて食べて歓声を上げたクジラのベーコン。俺たちはいつも、ずっと一緒だった。
第2シードで迎えた高校3年の夏。ノーアウト満塁のチャンスに浅いセンターフライで3塁ランナーだったお前がタッチアップしてホームに駆け込んだがアウトになり、そのせいだけではないが2年連続の甲子園を目指していた俺たちの最後の夏は3回戦で終わった。でも歳を重ね、酒を酌み交わす中で、そんな出来事もいつしか笑い話になり、俺たちだけの大切な、かけがえのない宝物になった。
高校を卒業した後も励まし合い、ともに酔い潰れ枕を並べて眠った。同じ時間を過ごし、同じ空気を吸って歩んできた。温厚で面倒見が良く誰からも頼られ、愚痴をこぼすことなく決して人の悪口を言わず、肝心なこと以外は微笑むだけの、本当にお前は俺たちが誇る昭和の男だった。お前のお陰で俺たち同期は1つにまとまって歩いてくることが出来た。何をするにしてもお前がいなければ始まらなかった。
今回、お前に同期のトップバッターの役割を任せてしまったけど、俺たちも早かれ遅かれ、お前のところへ行くよ。その時は、いつものように目を細めながらニコッと笑って手を振って迎えてくれ。