友人知人へ 30代 愛知県 第8回 金賞

ロッキーと俺
山口 達也 様 36歳

 俺の中には今もロッキーがいる。数学の教師で陸上部の顧問で二十七歳の冬に死んだ。俺が中三の時だ。交通事故だった。あれからもう二十年経つけれど、今でも十一月十三日が来ると「あぁ、今日はロッキーの命日だ」と思う。俺の人生の目標は今もあんたで、毎年毎年「まだまだだなぁ」と思う。でもどうにか一歩ずつでも近づいてゆきたい。今年はタバコも止めたし。

毎朝の数学の小テストが俺たちの学年の日課だった。あんたの授業は情熱的で、多分他の先生だったら皆あんなに数学を勉強しなかったと思う。「宿題を忘れた二人のうち、工藤は今、時速何キロか?」。校庭を走る工藤と田中をクラスみんなで窓から見てたけど、今それを教師がやったら絶対クビだよな。試験の解答が「無し。その条件に当てはまる数は存在しない」というのもあった。学年で誰一人解けなかった。0÷0を電卓で計算するとエラーが出る事もロッキーが教えてくれた。犬のウンコを右足で踏んでしまった時は、左足でも踏めば両方同じになってチャラになると言っていたロッキー。よその中学の職員対抗バレーボール大会に社会の先生と一緒にインディアンの格好で乗り込んでいったロッキー。俺たちはロッキー、あんたの事が大好きだった。

俺たちの学年は皆、進学した高校で不思議な経験をした。「なんでこの先生は、中学の授業をもう一度やってるんだ?」。どうりで難しかった訳だ。高校の問題やってたんだから。

卒業式の教頭の言葉を今でも思い出す。「皆さんに亡くなられた岩本先生からの最後のプレゼントがあります。先日の全市一斉の学力テスト、我が二条中学校が数学でトップでした。立命館、京都教育大付属、同志社、すべて抑えてトップでした。おめでとう!」。その瞬間、男子は吠えて、女子は泣き崩れて、鳩は飛び立って、大騒ぎだった。

今でも「どっちを選ぶか」とか「どっちに進むか」とか考える時に思うのは「こんな時ロッキーならどうするか?」だ。

俺の中には今もロッキーがいる。

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