夫へ 50代 広島県 第7回 佳作

お父ちゃん、ごめん
村上 理江 様 50歳

 お父ちゃん。今日、あなたの法要が無事に終わったよ。娘の美香と一緒にお線香をあげたのが見えたかな。

つまらん夫婦喧嘩が原因だった。あなたは怒って家を飛び出し、原付バイクに乗って出かけてしまった。

「どうせまた、駅前の模型屋で、Nゲージでも見よるに決まってる」そう呟きながらも、心の中で「悪かったなあ」と思っていた私は、罪滅ぼしのつもりで、あなたの好きなロールキャベツを作り始めたんよ。ロールキャベツがほどよく煮えた頃、電話のベルが鳴った。

「南警察です。ご主人が事故に遭われまして……」私は取る物も取り敢えず、病院へと向かった。「お父ちゃんはどこですか」病院の入り口であたふたしていた私が案内されたのは、あなたが横たわった個室だった。首と胸を白い包帯でぐるぐる巻きにされていた。警察官から、トラックと正面衝突して首の骨を折り、即死だったと聞かされた。

傍(かたわ)らには、いつも携えていた黒いポーチと私の好きなケーキ屋の箱が、つぶれたまま置かれていた。それを見ながらぽろぽろと涙がこぼれた。「さっきの喧嘩、まだ謝ってないよ、お父ちゃん。ちゃんと謝るから、戻ってきてよ」冷たくなったあなたの体にしがみついて、わんわん泣いた。子供みたいに。あの時、遠回りをしてケーキ屋に寄らなければ、バイクではなく車で出かけていれば、何よりも私と口喧嘩さえしなければ、あなたは一人ぼっちで逝くことなんてなかっただろうに。そう思うと、後から後から涙が溢れて、止まらなかった。

あれから17年。美香も一人前になり、もうすぐ嫁ぐことになりました。結婚式にはあなたの席もちゃんと準備します。だから、私と一緒にあの子の晴れ姿を見守ってやってね。そして、いつか私がそちらに逝く時には、もう一度言わせてください。

「お父ちゃん、あの時は強情張ってごめんな」

 

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