母へ 父へ 50代 愛媛県 第7回 佳作

愛のスイカ
一色 美鈴 様 55歳

 お父さん、お母さん、又、スイカの美味しい季節になりましたよ。

お母さん、十八年前のあの日、美味しいスイカが採れたから持ってきたと、急に私の仕事先にやって来て「これからも頼みます」と園長先生(私の上司)に挨拶をしてくれていましたね。その後、私が教えたスーパーで買い物をし、誰もいない私の家で父と二人、昼食をとり、その帰り道、交通事故に遭ってしまい、二人で一緒に逝ってしまいましたね。仲が良過ぎますよ。お父さん、私ね、病気なら諦めがついたかもしれませんが、突然の事故で二人一緒に失い、しかも、二時間前には、元気な姿の二人に逢っていたから、私がもう少し長く話をしていたら、又は別のスーパーを教えていたら数分でもずれていて、事故から免れていたのではないかと諦めがつかず、ずいぶん自分を責めて、立ち直るのに、うんと時間がかかったのですよ。知っていますか。

葬儀を終え数日後、家に帰ってみると、それぞれの席の食卓テーブルの上に、それぞれの好みの寿しを置いてくれていましたよね。日が経っていたから食べる事もできなくなっていた寿しを見て、どんなに泣いたことか……。でも一緒に置いてくれていたスイカは、駄目元で切ってみると腐りもせず、何と今までのどのスイカよりも甘くて美味しくて、みんなで泣きながら食べましたよ。子供達は、今でも、その味を覚えていて、この季節になると「じいちゃんちのスイカより甘いのはないね」と、必ず一度は、言っていますよ。

あの時、会いに来てくれたのは、最後まで私の事、心配してくれてたからでしょうね。スイカを見る度に、私への二人の愛情の深さを感じていますよ。本当にありがとう。私ね、今、辛い事もたくさんあるけれど、そんな二人の娘だから、私も二人の息子の親として、できる限りの愛情を注ぎながら、もう少し、頑張りますね。だから、これからも見守っていて下さいね。そして、そっちへ逝ったら、一緒に美味しいスイカを食べましょうね。

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