父へ 40代 東京都 第6回 入賞

不器用なお父さんへ、不器用な娘からの手紙
村田 まき 様 42歳

 お父さん、久々に思い出話をするね。

正直、私とお父さんは仲の良い親子ではなかったよね。

たまに帰省して顔を合わせれば些細(ささい)なことで口論し、お互い譲らないからエスカレートしてお母さんに制止される始末。私は相当ひどいことを言っていたと思う。

お父さんの子供への接し方が不器用なだけだったのに、未熟だった私は「愛されていない」と思い込んで、どこかで距離を置いていた。

お父さんは覚えているかな?お父さんが亡くなる1ヶ月前、私の結婚が決まり、婚家のご両親が顔合わせも兼ねてお見舞いに来てくれた日のことを。

既にベッドから出られず、酸素吸入器が手放せない状態。でも、「ここで会うのは嫌だ」と病院内の喫茶店で会うことになったよね。

あの時のことは一生忘れない。

お母さんが押す車椅子に酸素ボンベが積まれていたし、コーヒーを飲む手は震えていたけれど、お父さんはとても素敵だと思ったよ。

実際に会っていた時間は30分程度だったけれど、体力が無くなっていたお父さんにとっては短い時間ではなかったと思う。

別れ際にテーブルに手をつき、声にならない声で「娘をよろしくお願いします」と頭を下げてくれたとき、涙を堪(た)えるのが大変だった。

お父さんは最初で最後の対面になることがわかっていたから、私のために父親として最後の仕事をする場所は病院のベッドでは駄目だったんだね。

今思い出しても胸がいっぱいになる。

改めて……私を慈(いつく)しんでくれてありがとう。そして、素直になれなくてごめんなさい。

お父さんによく似ている性格の娘より

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