父へ 50代 神奈川県 第6回 金賞 広告掲載

涙のわけ
牛頭 靖子 様 59歳

 父さん、突然逝ってしまったから、お別れも言えなかったです。誰よりも優しくて笑顔が素敵な父さんに、悲しい過去があったのに何も知らず、幸せに生きていました。

父さんが遺してくれた家の名義変更がきっかけで、姉さんがいることが分かりました。母さんと出会う前に、結婚して娘がいたのですね。私は勇気をだして、姉さんに会ってきましたよ。遠く離れた三重県で、結婚もして元気に暮らしていました。

八歳の時に別れてから、二度と会うことができなかった話。父さんが何度も会いにきたけれど、祖父母に追い返されていたこと。近所の人に頼んで、おもちゃを渡したこと。離れたくて離れたのではなく、引き離された話を聞きました。最後に会えた日に父さんから貰(もら)った、涙でにじんだ手紙と、大きな十字架のペンダントは今も宝物だと言っています。

私が父さんから限りない愛情をそそいでもらって育ち、沢山の楽しい思い出を持っている陰で、寂しく育った姉さんがいたのですね。幼い姉さんは、どんなにか父さんに会いたかったのかと思います。

父さんが、お酒を飲むと泣いていたわけがやっと分かりました。姉さんを思っていたのでしょう。会いたくても会えない辛さ、悲しさを涙の中にしのばせていたのですね。

亡くなる前に、どれほど会いたかったことでしょうね……話してほしかった。

姉さんは親戚から、父さんが再婚して私が生まれたことを聞いていたようです。そしてまだ赤ん坊の私を、そっと遠くから見たと言っていました。父さんにそっくりな、あの笑顔を私に向けて「捜してくれてありがとう。とても会いたかった」そう言ってくれましたよ。父さんが恋しかった話も、十六歳で母親が亡くなり、高校を中退してしまった話も、全部笑顔に包んで話せる人です。

私はこれから、父さんが結んでくれたこの縁を大切にしていきます。姉さんと仲良く支え合って生きていきますね。

もう安心したでしょう……父さん。

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