妻へ 50代 埼玉県 第5回 入賞

支えられていたのは自分
寄藤 真一 様 57歳

 もう君が逝ってから20年が過ぎました。子供が生まれてから半年後、子供の受診のついでに気になる体調の不良を診てもらったら、すぐにでも入院が必要な状態だった。僕が早く気づいてあげればよかった。ごめんね……一緒に暮らしていたのに……。

それから7年半もの長い闘病生活。

何度も入退院を繰り返し、辛い治療を受けても、愚痴も弱音も言わず。いや、僕がいるときだけだったのかもしれない……。

そうだよ、辛くないわけなかったはずだよ。あんなに大変な治療だったんだから。なのに、逢いに行くといつも笑顔で迎えてくれた。

治療の副作用で右手が動かなくなったときも、「手が動かなくなっちゃった」って、笑って言ってた。なんで、そんなに強かったの?

「人工肛門」なんていう、おおよそ普通の人には想像もできないような体になっても、君は笑顔を絶やさなかった。君の辛さを少しでもわかろうと、人工肛門の装具を貼付けて会社に行ったこともあった。でも、そんな目に見えることじゃなかったんだよね。

あれから、近所の人や職場の人から、「大変だったね」「辛かったね」「頑張ったね」などと声をかけられたよ。でもね、一番大変だったのは君なんだよね。一番辛かったのは君なんだよね。一番頑張ったのも君なんだよね。

僕は、そんな君を支えるために、自分なりに頑張ったつもりだった。炊事、洗濯はもちろん、仕事が忙しいときは、一旦家に帰って夕食の支度をしてから、また深夜まで仕事に行ったこともしょっちゅうだった。

そう、僕が支えているつもりだった。

だけど……だけど、君のあの笑顔があったからこそ、僕は頑張れたんだよ。そうだよ、君のあの笑顔に支えられていたんだよ。そうなんだよ、支えられていたのは僕の方だったんだよ。

君が逝ったあと、何度も思った。

支えられていたのは自分だったんだって。

ありがとう、君に出逢えて本当によかった。

愛してるよ。

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