母へ 70代 青森県 第4回 入賞

今は亡き母へ
千葉 麗子 様 72歳

 おかあさん、そちらの世界の暮しはいかがですか? あなたが逝ってから十五年たちました。私の夢に一回もあらわれないということは、とても楽しく過ごしているのでしょうね。今日はあなたに心を込めて感謝とお礼の言葉を捧げたいと思います。

私が小学生の時、運動会で父兄参加種目の計算競争へあなたは出ることになりましたね。覚えていますか? 山奥の集落で育ったあなたは無学でしたが、私に聞いて一所懸命練習し、当日はやる気満々でした。おかあさんがスタートした時には、私は心臓が爆発する位ハラハラドキドキしました。あなたは誰よりも速く計算しちゃって、ゴールする前にもう一度確かめてサッとテープをきりました。私は胸が詰って涙が止まりませんでした。私の記憶では、感動する心が芽生えたのはこの時だと思います。自分で言うのも変ですが、私がこんなに心豊かなのはあなたのおかげです。

人を羨(うらや)む、妬(ねた)む、憎む、軽蔑する、というような気持は、有意義な人生を送っていくにはなんの役にもたちません。幸せ=心の充実=元気に繋がるということを、あなたから学んだ私の定義にさせていただきました。あなたやご先祖様からいただいた、お金では買えない健康を得ているということに、日々感謝しております。

一晩でポックリと心筋梗塞で逝ってしまいましたが、完全に冷たくなっていないあなたの頬は少し生暖かく、その感触は今でも心地良くはっきりと覚えています。あなたは死ぬ前に「お前はいい娘だ。お前を産んで本当に良かった」と言ってくれました。じーんときました。この言葉は残された者にとって最高のプレゼントです。私も言えば良かったなあ。「おかあさん、私を産んでくれてありがとう」って。

だからネ。私も死を迎える時は必ず実行しようと思っていることがあるのです。それは死に時をしっかりとつかまえて、残された者が後悔しないように、感謝の言葉を心を込めて言うことです。旅立つ者の務めだということが分かりました。

「おかあさん、本当にありがとう!」

 

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