母へ 50代 沖縄県 第3回 入賞

心に残る十円玉
運天 順子 様 57歳

 お義母さん……。長い間、おばぁと呼んでいたのでおばぁがしっくりするみたい。おばぁに手紙を書くなんてはじめてですね。

あのね、おばぁ、ずーと、ずーと前になるけど覚えているかな。あのガラスびんいっぱいの十円玉の事。本当、あれにはびっくりしちゃった。ハイと手渡された時、ずっしりと重たくてさ、よく集めたもんだと感心したよ。

あの頃って、私達夫婦間ぎくしゃくして、おばぁにはいろいろと心労させ、その上、遠くへ引越しをしなければならなくなって、淋しい思いをさせてしまったね、ごめんなさい。だから、おばぁの優しさが痛い程わかっていたの。嬉しくって涙が出そうだったのよ。今なら便利な携帯電話があるけれど、あの当時といえば公衆電話を利用していたものね。

アパートの二階の片すみにピンクの公衆電話が置かれていたの。おばぁからもらった十円玉を握りジーコ、ジーコとダイヤル回し「元気だよ」「そうかい」と、あとはおばぁの笑い声にホッとし心が軽くなったっけ。そして一言「ミートンダアヤーチャア、ティチドウ」(夫婦はいつもひとつだよ)と方言で教えてくれたね、本当にありがとう。

そして今、子供達はそれぞれ家庭を持ち幸せに暮らしているよ。そうそう孫が二人います。可愛くってビタミン剤のよう。見ているだけでファイトがでるの。それからね、びっくりしないでよ。ふたりで老人ホームへ行って、三味線を弾き、そばでオンチの私が歌っているのよ。ホームのお年寄りの笑顔とパワーを沢山もらって日々楽しく過ごしているの。

だから安心してね。きっとおばぁが見守ってくれているからかもね。

おばぁ、いつもありがとうネ。

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