母へ 50代 神奈川県 第2回 銀賞

天国のお母さんへ
山田 由美子 様 52歳

拝啓

 フサちゃんの安らかな最期を看取る事ができてから三月が過ぎようとしています。そちらへ行ってからすぐにお父さんに会えましたか。一足先に旅立ったお父さんが必ず迎えに来てくれると信じていましたものね。

 生前、フサちゃんが加入していたくらしの友での湯潅の儀で、私達も手伝いながら旅仕度が出来た事が、思いもしなかったので、とても良い思い出になりました。

 気づくと仏壇の写真に話しかけている私の声、届いていますか。いつも傍らにいて見守ってくれている気がしています。

 15年間の介護も卒業を迎えました。愛で満ちた介護ができたでしょうか。時々「お世話になります」と言ってくれた事が何よりの喜びでした。本当に色々な事があり、言葉にできない切ない思いもしましたが、もう少し生きていて欲しかったです。でも、糖尿病・脳梗塞・認知症と体と心の自由を奪われたフサちゃんには、もう少し頑張ってと言うのは辛い事だったかもしれませんね。言葉少ない中での口癖だった「もういいよ」は「もう充分に頑張ったよ」という重みのある言葉だったのですね。

 私が「フサちゃん」と呼ぶ様になったのは、介護が大変になり「お母さん」と呼ぶ事が辛くなり、あなたの事を客観的に見ようと心に誓った時からですが、たまにボソッと「私はあなたのお母さん」と言われた時にはドキッとしたものです。ごめんなさいね、本当は最後迄「お母さん」と呼ぶべきだったかもしれませんね。でも「フサちゃん」と呼ぶ様になってから、あなたへのいとおしさが深くなっていった事も事実ですから、どうぞ許して下さいね。

 15年の月日は大変でしたが、夫婦の絆が深まり、息子二人が優しく育ってくれた事、フサちゃんが一生懸命生きて人間の尊厳を身をもって教えてくれたからだと感謝しています。色々な事を忘れてしまっても、最期まで私達の事は覚えていてくれてありがとう。だからこれからも、私達の事を見守る事は忘れないで下さいね。

 本当にお疲れ様でした。ゆっくりと休んで下さいね。

 それではまたいつかお会いしましょう。

かしこ

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