母へ 50代 大阪府 第7回 入賞

娘として 看護師として
堀内 貴美子 様 58歳

 あなたが最後の患者で、私は報われました。それは、あなたが「母」だったからでしょう。

高校卒業後、都会にあこがれ看護師となり、故郷、島根にたまに帰省し、あなたの温かさが当たり前になっていました。あなたはいつまでも、元気で強気の母だと思っていました。母が老いるなんて、考えもしない私でした。

三十年間余りの看護の仕事を病気で退職した私は、自分の価値を探していた頃、あなたの入院に、ただただ、驚くだけでした。病名を癌の末期と知り、余命を医師から告げられた時、声を殺して泣きました。あなたに捧げた、初めての涙でした。それでも、私を心配する「母」であり続けたあなたの姿に、私は強く生きようと決意できました。宿命に逆らわず、あるがままに生きようとする姿を前に、今まで、看護師として経験したことのない、大きな使命感に奮い立てたのです。そして、看護師に、また目覚めていました。あなたは、私が看護師を退職し、苦しんでいることを知るかのように、私の看護を望み、喜んでくれましたね。看病しながら、心から患者の気持ちになれました。知識だけでは、どうにもならない現実の中、私はあなたの病気と闘う壮絶な姿をまざまざと眼にし、私も見えない宿業と、戦っていました。そんな中、ふと、思ったのは、「私のことは安心してね」でした。体の弱い私をいつも心配するあなたに、「貴美子、元気になります」と病室で誓った夜、あなたは、眼を閉じ安らかに、まるで、眠りにつくかのように、逝ってしまいましたね。私はあなたの最期の姿に、今まで味わったことの無い、「死」を経験しました。それは、「生も歓喜、死も歓喜」という、私の看護師としての永遠の課題であった、答えでした。「死は次の生への旅立ち」であるのだと。

あなたの海より深い愛に、何度ありがとうと言っても、言い足りない気がします。私の最後の患者は偉大な母、あなたです。私、あなたの娘で、看護師で、本当に良かった。

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