祖母へ 40代 北海道 第4回 佳作

おふとんの記憶
菅原 里佳 様 40歳

 そろそろ涼しくなってきたので、またあの重い布団をひっぱりだしてこなくちゃ。もう23年も使っている布団。今は軽くてあったかい布団がたくさん売っているけれど、それでも冬はあの重い布団じゃないとダメな自分がいます。

私が高校3年生の夏、父が突然借金を残して出て行ってしまいました。不安や悲しみ、衝撃の中、少しでも家計に負担がかからぬよう寮のある会社に就職しました。同期入社の子たちはそれぞれ豪華な電化製品やきれいな服や靴、化粧品などを親に用意してもらい入寮してきましたが、我が家にはそんな余裕はなく私の荷物はダンボール一つにお茶碗とお箸、コップ、わずかな下着と服。そしておばあちゃんが打ってくれたあの重い布団だけでした。

おばあちゃんが私の就職祝いにこつこつ打ってくれた布団。我が家はもう誰も何のお金も持っていませんでしたから、「せめてこれくらいは持たせてやりたかった」というおばあちゃんの気持ちのつまった布団でした。柄もほんとうにクラシカルなものですが、私にとっては特別な布団です。重くて、引っ越しの度にどうしようか悩んだけれど、結局結婚してもずっと一緒です。

仕事でのつらさで涙をながした場所。つかれてへとへとでも、安らげる場所。赤ちゃんも眠った場所。おばあちゃんの布団は私の毎日の日記のような場所でした。

この春、99歳でおばあちゃんは旅立ちました。なぜだか、おばあちゃんにあの布団のお礼をずっといいそびれたままでした。

「おばあちゃん、お布団ちょっと重いけどすごく寝心地がいいんだよ、昔おばあちゃんと一緒に眠ったことを思い出すよ。本当に本当にありがとう。またいつか会いたいです」

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